COLUMN & INTERVIEW

ジョブ型雇用の拡大で企業に求められる変化、職務要件定義とジョブディスクリプション ――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.2

2020.10.05

オウンドメディアリクルーティングで情報発信する際、シェアードバリューコンテンツとともに軸となる「ジョブディスクリプション(職務要件定義書)」

新たな時代におけるジョブディスクリプションの本質を理解するために、元「リクナビNEXT」編集長で、現在はルーセントドアーズ株式会社 代表取締役を務める黒田真行氏の連載寄稿記事をお届けします。

2回目の記事では、1回目に続きオウンドメディアリクルーティングがここまで広がった背景を紐解きながら、今回はそもそもジョブディスクリプションとは何か。従来型の募集における「募集要項」と何が違うのか。そして、効果を発揮するジョブディスクリプションはどうすれば作ることができるのかを一緒に考えていきます。ぜひ今後の採用活動の一助としていただければ幸いです。

黒田 真行氏。ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役。1988年リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、リクルートドクターズキャリア取締役など、30年近く転職支援事業に関わる。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』ほか。

企業がリクルーティングを主導する時代へ

中途採用マーケットは、長い間、求人広告や人材紹介などの有料サービスと、リファラル(縁故)やハローワークなどの無料経路が採用手法の主役でした。特に有料の採用支援サービスについては、戦後1940年代以降は、高度成長期からバブル期を含めて新聞や求人情報誌などの紙メディアを中心に発展してきました。

ただ、2000年ころを境に、インターネット求人サイトへの転換、また、規制緩和を背景にした人材紹介サービスの急速な広がりを受け、外部の力をうまく活用して自社の採用戦略を実践していく流れが一般的なものとなりました。

結果的に、採用業務の外部委託の依存度が高まり、リーマンショックの影響で2009年に経済が底を打って以降、長期に続いた景気回復期には採用コストの膨張、それでも採用予定人数が充足しない現場の悲鳴が続き、多くの企業のなかで課題が顕在化していました。

2010年代に入ると、SNSの登場、スマホの普及、クチコミサイトの一般化など、ソフトとハード両面で人と企業の情報の格差が小さくなり始めます。企業が、従来型の求人サイトや人材紹介に頼らず、自社の公式SNSやウェブサイトを用いた発信で採用を実現していくことも可能になりました。採用の自前化、採用業務のイニシアティブの復活が一気に進み始めたのです。

リクルーティングに関して、上流の企画だけでなく、採用や人材教育の現場に近いところまで、社内で主導権を持ってやり切るオウンドメディアリクルーティング時代が幕を開けました。この企業主導の採用活動のなかで極めて重要なことは1回目の記事で説明したとおり、正しくジョブディスクリプションを制作することです

ジョブディスクリプションとは何か

ジョブディスクリプションとは、日本語で言うと「職務記述書」と訳されるものです。従来の一般的な「募集要項」は、簡単な仕事内容や給料などの記載に留まっていました。一方、ジョブディスクリプションはさらに詳細な情報を記述します。項目には下記のようなものがあります。

●職務に関するもの
・職務の内容
・職務の目的

●仕事の役割
・目標
・責任
・権限の範囲
・関わりを持つ社内外の関係性

●必要な能力
・技術・知識
・資格
・経験
・学歴

上記の情報を詳細に記述することで「仕事の役割」と「必要な能力」の見える化を図り、求める人材が仕事を探す際の検索キーワードとしっかり合致させていきます。それは求職者とのミスマッチをなくすだけでなく、彼らの検索行動に対応して、適正な出会いの機会を増やすことにつながります。

また、ジョブディスクリプションは、状況変化に応じて常に適切なメンテナンスを行う必要があります。急速に変化する市場への対応やイノベーション推進が求められる時代においては、新たな仕事が生まれたり、既存の仕事が細分化したりすることが加速するからです。

従来型の採用では、職種のカテゴリー分類はほぼ固定化されていましたが、現在の状況においては、フォーマットなどに縛られず、自社の細かなニーズを精緻に表現して求職者に届けることが、出会いの機会の創出やマッチング精度を高めることにつながるのです

ペルソナ設定を軸にしたジョブディスクリプションの作り方

ペルソナ設定を軸にしたジョブディスクリプションの作り方

では、実際にジョブディスクリプションはどのように制作していけばいいのでしょうか。

求職者の仕事探しの検索行動は日々進化しています。かつては、金融、IT、メーカー……といった既存のカテゴリーから企業を絞り込んでいましたが、今は働き方やスキルなど個々の関心に沿ったワードを掛け合わせて検索し、合致する企業のジョブディスクリプションを閲覧するようになっています。

したがって、自社で設定した求める人材像のペルソナをもとに、求職者が検索窓にどんなキーワードを入れていくかを分析し、それを逆算してジョブディスクリプションを書く必要があるのです。まさに、昨今の販促業界では当たり前となっている、ユーザーの検索行動を意識したwebマーケティング技術と同じです

たとえば、メガバンクで法人向け営業をしている30代の男性を想定してみましょう。有名私大の経済学部を卒業して新卒入社し、地方の支店を3カ所経験して、ようやく都内の大型支店に配属されたものの、40代以上の希望退職募集のニュースを見て将来不安を感じて転職を考えています。まったく畑違いの会社で働くのも不安なので、自身のスキルを活かしたキャリアを考えています。

このようなペルソナが、どのようなキーワードで検索するかを想定します。考えられる検索キーワードは、下記のようなものでしょう。

・30代
・金融
・メガバンク
・営業
・法人向け
・東京
・卒業大学名
・事業再生

金融以外にどこで市場価値が発揮できるかがわからないため、同じ大学の卒業者がどんな企業で求められているか探るために「卒業大学名」などで検索する可能性もあります。あるいは自分が興味を持っている「事業再生」などのテーマワードで検索することもあるかもしれません。

このように、採用しようとしている人材像の心象風景について細かく考えることが必要になります。採用ペルソナに近しい人が社内にいれば、どんなキーワードで検索するかを聞いてみるのもいいでしょう。

キーワードに即しつつ、ジョブディスクリプションの記載を充実させていく際は、下記のような軸に沿って書くとよいと思います。

●採用企業に関する一般情報
・会社名
・職種名
・勤務地
・採用プロセス
・評価制度

●雇用条件
・給与
・雇用形態
・各種手当
・勤務時間
・休日・休暇
・福利厚生
・働く環境

●企業カルチャー
・企業ミッション
・部署・チームについて
・社員インタビュー

●職務情報
・仕事の目的・意義
・仕事概要
・仕事詳細
・プロジェクト例
・クライアント例
・募集職務の興味付け

●求められる能力
・必須経験・スキル
・歓迎経験・スキル
・求める人材像

ここまで詳しく記述することを推奨しているのは、理由があります。簡易的な職種名が書かれているだけの求人要項では、実際に入社して仕事が始まった場合、そこに書かれていない仕事が発生するケースが少なくないのです。いつの間にか兼務が増えたり、書かれてない仕事に携わることになったりしてしまい、「これもやるべきなんですか」という会話が発生し、ひいては離職につながってしまうのです。契約社会の欧米においては、当初の契約に書かれていない仕事をするためには、新たに契約を結び直さなければなりません。従来の求人要項のように業務の範囲を曖昧にするのではなく、詳細なジョブディスクリプションによってしっかり定義することをめざしてほしいと思います。

「求職者ファースト」で敬意と信頼を表す

ジョブディスクリプションを記述する際のポイントは、採用する側の目線で考えるのではなく、「Job Seeker First(求職者ファースト)」で考えることです

もともと求人広告の募集要項は、求める企業側にとっての都合が優先される傾向があります。採用する側のほうが強い立場である「買い手市場」の歴史が長かったためです。

企業側が求める人材の条件を一方的に羅列する、まさに「企業が求める人材の必要要件」を記述しただけのものです。しかし、これからの時代は、情報の非対称性が壊れ、企業自身が「自社が求めている人材」からいかに選ばれるか、という構造に変化していきます。つまり「企業が求める人材が希望する企業」であるかどうかをプレゼンテーションする必要があるのです。ジョブディスクリプションは、単なる人材要件や募集要項を伝達するだけではなく、求職者が仕事を通じて求める価値が手に入るかどうか判断するための情報でもあります

また、応募者への態度は、入社後の従業員への態度につながっています。ジョブディスクリプションは、企業が応募者に対して敬意と信頼を持って接していることを表す“会社の顔”でもあるのです。

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