COLUMN & INTERVIEW

ジョブ型雇用の拡大とメンバーシップ型雇用の限界 ――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.1

2020.09.28

オウンドメディアリクルーティングで情報発信する際、シェアードバリューコンテンツとともに軸となる「ジョブディスクリプション(職務要件定義書)」。欲しい人材と出会う機会を生み出すために必要となるジョブディスクリプションに関して、ニューノーマルの時代に入り新たな変化が起きつつあります。そして、その役割はより重要性が高まっています

そこで、新たな時代におけるジョブディスクリプションの本質を理解するために、元「リクナビNEXT」編集長で、現在はルーセントドアーズ株式会社 代表取締役を務める黒田真行氏の連載寄稿記事をお届けします。

1回目の記事では、新たな変化を象徴するジョブ型雇用の拡大という状況を紐解きながら、そのなかでジョブディスクリプションの役割がどう変わりつつあるかを考えていきましょう。

黒田 真行氏。ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役。1988年リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、リクルートドクターズキャリア取締役など、30年近く転職支援事業に関わる。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』ほか。

ジョブ型雇用はどこまで広がるのか

2020年7月31日の日本経済新聞に、雇用の激震を告げる記事が掲載されました。KDDIが約1万3000人の正社員に、職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型雇用」を導入するというもの。日本を代表する情報通信企業においては、革新的な変化と言えるものです。

具体的な内容は、ジョブディスクリプション(職務要件定義書)で社員の職務を明示し、その達成度合いなどを見て、年功に囚われない評価で賃金に反映させ、有能な専門人材を柔軟に活用していこうというものです。一律20万円台だった新卒の初任給も、大学での研究分野やインターンシップの評価をもとに、最大で2倍以上とするケースも想定するという思い切ったプランとなっています。

この決断の背景には、次世代通信規格「5G」などの技術革新による事業環境の劇的な変化があると見られています。これはつまり、あらゆる日本の大手企業も同じ道を歩む可能性が高いことを示唆しています。

テレワーク、リモートワークが急速な広がりを見せているなか、最近メディアで取り上げられることが増えている「ジョブ型雇用」ですが、具体的にはどのような雇用の形を指すのでしょうか。比較対象として使われる日本式の「メンバーシップ型雇用」と何が違うのでしょうか。

一言で言えばメンバーシップ型雇用は、新卒一括採用で総合的なスキルを求められる方式、総合職採用を指します。それとは逆に、ジョブ型雇用は仕事の範囲を明確にすることで「より専門性を高める」方向性の採用の形を指します。

メンバーシップ型雇用の特徴として、「長期勤続者が多く、仕事の範囲も幅広く、属人的な業務が多い」という状況が存在していました。結果的に会社への帰属意識は高いものの、転職する場合のリスクが高く、優秀な人材でも流動化しづらい結果をもたらす側面がありました。

一方で、人材の柔軟な流動を促すと言われているのがジョブ型雇用です。ジョブ型雇用で重視されるのは「仕事内容に必要なスキルがあるかどうか」。学歴や年齢、社内文化とのマッチ度と言った抽象的なモノサシではなく、実務に即した基準で雇用が成立する合理的な形態と言えるでしょう。

会社ごとの流儀や仕事の進め方に依存するのではなく、自立して学習していくことが求められる点やセルフマネジメントがベースになるということから考えると、ジョブ型雇用はテレワーク/リモートワーク向きと言えるでしょう。

雇用問題を語る議論では、これまでも「日本も欧米で主流のジョブ型雇用を取り入れるべき」という話は議題になってきました。今回、たまたま新型コロナウイルスの蔓延により、遅々として進まなかったリモートワークが急速に普及、それに合わせるように「評価基準」や「採用方法」の議論も増加しています。

メンバーシップ型雇用の限界

日本で主流となってきたメンバーシップ型雇用は、「新卒一括採用」「年功序列」といった雇用慣行とセットで定着してきました。新卒一括採用型は職種を限定せずに総合職として採用する場合も多く、職種や仕事内容をローテーションさせて幹部候補人材を見極め、会社を長く支えていく人材を育てていく方針です。早期退職をしないように「年功序列型人事制度」を取ることで、終身雇用をめざしていく時代の仕組みです。

会社へのロイヤリティなどのメリットもあるものの、「専門職の人材が育ちにくい」といったデメリットもあるため、IT化の進む現代にそぐわない部分が課題とされてきました。平成の30年で製造業を中心とした日本の上場企業の時価総額が、GAFAと言われる4社の時価総額に抜かれるという存在感の下落の要因とも言われてきました。

そんななかで経団連会長の中西宏明氏がメンバーシップ型の雇用を見直すべき、と提言したことは時代の転換点を示すものでした。その狙いは、「日本企業の国際競争力を上げるため」ということにあると受け取っていいでしょう。

新卒一括採用型では専門職が育ちにくい、というデメリット。総合職として人事異動に振り回されていては専門分野を極めることも難しい。ITエンジニアやAI、データサイエンティストをはじめとした高度な生産性を持つ人材の育成も急務です。

また、時代の変化と共にダイバーシティの浸透も進んでいます。たとえば「子育てと両立しながらの勤務」「介護をしながら在宅勤務」「外国人労働者の受け入れ」「中高年人材の活用」など、大きな課題も控えています。働き方の多様性を受け入れていくためにも、ジョブ型雇用が注目されているのです。

日々高まるジョブディスクリプションの重要性

日々高まるジョブディスクリプションの重要性

従来の採用において求人票に記載される「募集要項」は、簡単な仕事内容/勤怠時間/勤務地/給与/福利厚生などが書かれたものでした。

しかし、ジョブ型雇用が一般化していくと、募集するポジションに求める「仕事の役割」や「必要な能力」を詳細に明文化し、求めるスキルを持った求職者がインターネットを使って検索するときのキーワードにしっかり合致させなくてはいけません。

ジョブディスクリプションによって職務要件を詳細に記述することで「仕事の役割」と「必要な能力」の見える化を図り、欲しい人材が求める検索キーワードとしっかり合致させる必要があるのです。それは求職者とのミスマッチをなくすだけでなく、彼らの検索行動に応え、出会いの機会を増やすことにつながります。

また、ジョブディスクリプションは、一度作れば終わりというわけではなく、常に適切なメンテナンスを行わなくてはなりません。

組織の規模や人員構成が変わるたびに、一人ひとりのミッションが変わることや、外部の技術革新や内部でのイノベーション推進の進捗を鑑みれば、四半期に一度、見直す会社が多いのもうなずけるところです。また、新たな組織が増設されたり、新たな職種を増加したり、職種を細分化したりすることもあるでしょう。それらに素早く対応し、ジョブディスクリプションに反映する必要があります。

特に従来の採用手法では、職種のカテゴライズは、ほぼ求人媒体やエージェント任せになっていたと言っても過言ではありません。求職者に、自社のニーズを適切に理解してもらい、マッチング精度を高めるためには、オウンドメディアでフレキシブルにメンテナンスを行い、ジョブディスクリプションを最適に精緻化し続けることが必要です。

ジョブ型雇用の拡大に潜むリスクと課題

一方、ジョブ型雇用の拡大については、いくつかの重要な懸念や課題が指摘されています。

日本労働組合総連合会会長の神津里季生氏は、コロナによる失業者の増大などのリスクもあるなかで、政策にスピード感が欠如しているような状況を指摘しつつ、最低賃金引き上げの凍結などを警戒しています。「労働移動」が当たり前の世界を作ってこなかったことを要因に挙げ、競争力のある業界に人を移動して賃金を上げていく仕組みが必要だと語っています。

また、専門家のなかにも、労働移動を前提にしたジョブ型雇用は、社員を特定の職務に限定して採用する以上、何らかの事情でその職務が不要になった場合、最終的には解雇せざるを得ない性質を持っていることと、「解雇権乱用の法理」で労働者の権利が厚く保障されている日本の現状とのギャップを指摘する声も大きくあります。

他にも、とりわけ中小企業をはじめとして特定の職務だけこなせる専門職人材より、複数の仕事をこなせる「多能工」的な人材を求めているところが多いことも弊害になる可能性があると言われています。

結果的に、日立製作所や富士通のようにグループ会社をたくさん持っているがゆえに、内部労働市場で雇用を長期保障できる一部の大企業以外には、大多数の企業にとってジョブ型雇用はリスクが大きすぎるのではないか、という強烈な指摘があります。日本企業は、これらの課題をどうクリアしていくのか、と言うこととセットでジョブ型雇用への移行に取り組む必要があります。

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