CASE STUDY

経営も採用も「ビジョンファースト」で─中川政七商店が語る「日本の工芸を元気にする!」ための人材戦略

2020.06.12

「日本の工芸を元気にする!」という企業ビジョンを掲げ、それに基づいた“ビジョンファースト経営”を標榜する株式会社中川政七商店。人材採用においても「企業ビジョンへの共感」を重視し、「ビジョンに共感する人材へいかにリーチし、リザーブするか」を課題としている。

企業ビジョンをいかに伝え、理解してもらい、各職種の採用につなげるかという課題解決に向け、同社が2019年に実施したのが、採用サイトのリニューアルプロジェクトだ。このプロジェクトを中心に、同社の人材採用におけるオウンドコンテンツ戦略について、取締役 副社長の荻野祐氏、経営企画室の岩村奈緒子氏、人事の荒井勉氏に聞いた。

(左から)株式会社中川政七商店 荻野祐氏、荒井勉氏、岩村奈緒子氏
荻野祐氏(左)。株式会社中川政七商店 取締役 副社長 経営企画室 室長。人材戦略、組織戦略の策定から人事採用計画の決定まで幅広い役割を担う。

荒井勉氏(中)。事業支援部 管理課 人事。主に正社員の採用窓口として採用活動に携わる。

岩村奈緒子氏(右)。経営企画室。全体の採用計画策定に携わるほか、採用サイトリニューアルのプロジェクトリーダーを務める。

経験やスキルよりも、重視するのは「企業ビジョンへの共感」

「花ふきん」など中川政七商店で扱う商品

——中川政七商店と言えば、「暮らし」を大切にしたい女性を中心に人気の生活雑貨ブランドです。そんな中川政七商店の採用活動において、特に重視していることは何でしょうか。

荻野 当社は、ビジネス誌などのメディアにおいて「ビジョンファースト経営」というキーワードで取り上げられることが増えています。実際、私たちの企業活動の軸は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンであり、これがすべての意思決定の根幹にあります

そのため採用活動においても、このビジョンが土台となっています。つまり、採用においても、スキルや経験と同等以上に、「応募者の方が、当社のビジョンに共感しているかどうか」を重視しているのです

企業ビジョンにより求職者の共感を喚起する「Shared Value Content」についてはこちら

——企業ビジョンは、経営においてもちろん大切ですが、採用においても重視しているわけですね。その姿勢は、正社員、アルバイトに関わらず、採用活動すべてにおいて同じなのでしょうか。

荻野 もちろんです。当社は奈良本社と東京事務所のほか、全国に59の直営店舗があり、本社と店舗でそれぞれ正社員・準社員・アルバイトを採用しています。どのような労働形態であっても、ビジョンを軸に採用活動を進めています。

なぜビジョンを大切にしているかと言えば、中川政七商店は、300年以上続く老舗企業ではありますが、規模も資金力も強大ではなく、ものづくり自体は様々な工芸メーカーさんと一緒に進めるファブレス形態であり、事業体として明確な強みがあるわけではないからです。自社ブランドを構築する力と、その経験をもとにしたコンサルティング事業を強みに成長してきた背景があります。組織のあり方を考えても、共感と瓦解リスクは反比例するでしょう。だからこそ、会社の事業活動に紐付く明確なビジョンを大切にしているのです。

当社は、2018年に代表取締役社長が代わって、現在は、初の創業家出身ではない者が務めています。とはいえ、私たちは「経営者ではなく、ビジョンに仕える」という考え方のもと事業組織体を作ってきたので、継承においてもまったく問題はありませんでした。人が変わっても組織の意識は変わらないからです。

ビジョンを掲げる企業は多々見受けられますが、そこへのこだわりや、それがすべての意思決定の根幹にある会社は、それほど多くないと感じています。

企業ビジョンの表現に工夫を凝らし、求職者の“感情”を揺さぶるための採用サイトリニューアル

取締役 副社長 経営企画室 室長の荻野祐氏

——採用活動において、企業ビジョン重視の姿勢をどのように実践しているのでしょうか。

荻野 「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに共感する人々は、正直なところ、それほど多くはありません。非常にニッチな層です。

だから、こちらが採用したいと思った時に、そういう人たちが都合よく求職中だとは限らない。2019年途中までは、人が足りなくなると求人媒体にお金を出して、採用広告を数カ月掲載するというスタイルを中心に活動していましたが、それだとあまり効率的ではないなと感じていました。

ビジョンに共感するということは、つまり「当社のファン」ということです。そういうファンの数を毎日コツコツ積み上げていき、コミュニティ化できれば、採用活動もずっとやりやすくなると考えました。とはいえ、採用広告には掲載期間があります。ファンを積み上げるためには、定常的に思いを伝えられる“箱=サイト“が必要ということで、岩村が中心となり、2019年夏前から秋にかけて採用サイトの全面リニューアルを実施しました

——どのようなリニューアルを実施したのでしょうか。

岩村 リニューアルプロジェクトは、経営企画室、荒井のいる人事、そしてデジタルマーケティングの担当者、アートディレクターと、部門をまたぐメンバーで行いました。一番重視したのは、採用サイトを訪れたユーザーに「どんな感情の動きを持ってもらいたいか」という点でした。そこで、まずはこういう感じを抱いてもらって、次にこういう感情で……と設計し、それに基づいてコンテンツを決めていきました。

企業ビジョンを求職者に伝えるための動画
企業ビジョン「日本の工芸を元気にする!」を求職者に伝えるための動画。社員や店舗の雰囲気も伝わってくる

どの職種でも共通しているのは、まずビジョンを伝えることで、そのための動画を冒頭に掲載しています。この動画は、働きたいと思っている方に「かっこいい」と感じてもらい、テンションを上げるために、かなり力を入れて作りました(笑)。

企業ビジョン・価値を伝える「パーパスコンテンツ」の作成時に意識すべきことはこちら

次に、たとえば販売職であれば、私たちが大切にしている「接心好感(せっしんこうかん)」という概念があるので、この考えを説明する文章と動画を用意しています。そこで「こんな接客ができればいいな」と共感していただき、続けてジョブディスクリプションや社員インタビューを見て、求めるキャリアや自分と通じる部分から「自分ごと化」してほしいと考えています。さらに、キャリアパスや働き方の比較表を見て、「中川政七商店で働く自分」に落とし込み、最初の「かっこいい、働きたいな」というテンションのまま応募につなげるという流れですね。

求める人材と出会うためのジョブディスクリプションについてはこちら

荻野 本社の採用についての考え方も、基本は店舗と同じですが、本社の方はジョブディスクリプションの切り口にある程度幅を持たせて伝えています。たとえばデザイナーや生産管理など、ものづくりのデザイン・生産に関わる職種を「つくる」というグループで分類しています。同じように「伝える」「支える」「企てる」と、大きな固まりでピックアップして求職者の方にお伝えしています。

もちろん、そのグループ内でさらに職種を分け、詳しいジョブディスクリプションも提示しています。ただ、大きな分類に仕分けることで、事業のなかで担う役割を具体的にイメージしやすくなると考えています。そのため、その分類自体は頻繁に変えていくつもりはありません。

本社中途採用ページ
本社採用のジョブディスクリプションは、まず「つくる」「伝える」「支える」「企てる」と4つに分類し、中川政七商店の事業における役割を伝えている

採用サイトと連携させ、「店舗」も求職者へのタッチポイントとして活用

事業支援部 管理課 人事の荒井勉氏

荒井 リニューアルに当たり、店舗の社員へ入社したきっかけをヒアリングすると、「接客を受けて、ファンになったので応募した」という声が多いことがわかりました。そのため店舗の採用に関しては、店舗自体も一つの採用媒体と捉えています

店舗に置かれている採用カード
「採用カード」は、店舗に常備されている

最近始めた取り組みでは、「中川政七商店ではたらくということ」という採用カードを置いて、お客様との会話の流れで手渡したり、持ち帰ってもらったりできるタッチポイントを作りました。裏面のQRコードを読み込むと、今回リニューアルした採用サイトに飛びます。

同時に、現在は募集していなくても、希望の店舗に空きが出た時に連絡できるように、当該店舗に連絡先を登録しておくことができる「スカウト制度」という仕組みも作りました。採用のタイミングでその人に連絡するというわけです。

荻野 まだ始めたばかりなので、私たちが目指す、コミュニティに基づく採用が軌道に乗ったわけではありませんが、スカウト登録は毎日数件ずつ積み上がってきており、「人材が必要になった時でも、このコミュニティがあるから安心」という安堵感は持っています。

——本社採用の方はいかがでしょうか。

荒井 本社には大企業から転職してきた人も多いのですが、同じようにヒアリングしたところ、「ビジネス誌や経済紙などメディアの記事・インタビューを見てビジョンに共感し、応募した」という人が多いことがわかりました。また、ビジョンファーストなど経営に関する記事などの他にも、当社が行なっている工芸メーカーの販路拡大支援事業である合同展示会「大日本市」やコンサルティング事業のレポート記事などを見て、共感して応募していただくケースも多いです。

荻野 だから、こういう取材の機会は積極的に受けたいと思っています(笑)。

岩村 ビジネス系のメディアも採用につながる入り口の一つとして期待しています。そのため、記事を読んだ熱が冷めないような採用サイトにするため、(上記で述べたように)情報設計や映像表現などは工夫を凝らしましたね。

リニューアルにより、昨年比でアクセス数は5割増し、応募数は3倍に

経営企画室の岩村奈緒子氏

——採用サイトのリニューアル後、成果は感じていますか。

岩村 採用サイトのアクセス数を前年と比較すると、150〜160%増となっていることがわかりました。ただ、もともとそれほど多くのアクセスがあったわけではないので、さらなる飛躍が課題ではあるのですが……、応募数は昨年比で3倍になったんです。アクセス数の増加に比べ、応募数がかなり伸びているので、採用サイトを訪問した人が応募に至るという点では、一定の成果を得られたと考えています。

——実際に、応募してきた方の質的な変化はいかがでしょうか。

荒井 販売職の場合ですが、やはり採用サイトを見て、当社のビジョンを理解し、応募してくる方が増えていると感じています。

私たちは販売職を「ものづくりの観点や考え方を伝える最重要ポジション」として捉え、実際に面接でもそれを説明しています。これは正社員でもアルバイトでも同様です。

企業ビジョンへの共感度は、最終的に面接によって見極める

中川政七商店の心得が掲載された2019年版小冊子
中川政七商店の「心得」と「採用カード」。心得はビジョンに紐づく中長期目標や組織体制など様々な社内情報を載せた小冊子で、毎年全社員に配られる

——最後に、企業ビジョンへの共感を、実際の採用活動においてどのように見極めているのか。また、その見極めにおいて、採用サイトがどのように貢献しているのか教えてください。

荒井 見極めに関して言えば、一般的に面接は重要な採用手段ですが、当社は特に大事にしています。正社員の最終面接は必ず代表取締役社長の千石あやが直接候補者にお会いし、お互いの考えを確認するために1対1で、テストというより、相互理解のために1時間ほどお話しをさせていただいています。

荻野 「これを聞いたら候補者の考えや企業ビジョンへの共感度がわかる」という便利な手法はないですよね。結局は、対面で話すことが一番大切ではないでしょうか。当社の考え、つまりビジョンを最も的確に伝えられるのは代表の千石なので、候補者とじっくり話して、お互いの共感が合う方に来ていただいています

岩村 サイトを見れば、ビジョンはもちろん、キャリアプランなどもわかっていただけるでしょう。また、当社では全社員(アルバイト含む)に毎年配布される「心得」を作っています。そこには、社員が持ち合わせておくべき「正しくあること」「誠実であること」「対等であること」など10項目から成る「こころば」があり、これら心得は採用サイトにも反映されています。そのため、応募段階で、当社のビジョンやこころばに共感を持っていただいている方が非常に多く、その点で採用サイトの貢献度は高いと感じています

荻野 とはいえ、採用サイトを受け皿にした「コミュニティベースの採用活動」全体の進化は、まだこれからです。今のところ、採用人数の多い販売職先行で進んでいますが、本社採用では、まだ着手できていません。ですが、近いうちに、本社採用でもビジョンに共感してくれる候補者の方々とのつながりを作っていきたいです。そして、「日本の工芸を元気にする!」ために共に邁進できたら嬉しいですね。

本稿のインタビュー風景

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