CASE STUDY

「倫理的である」という企業理念の発信で、価値観に共感する社員を引き寄せるラッシュの採用戦略

2020.03.05

株式会社ラッシュジャパンの採用サイトでは、社員の生き方や考え方をインタビュー記事や動画によって深く掘り下げており、彼らがラッシュの掲げる理念や価値観に共感していることが伝わってくる。ラッシュの共同創立者の一人であるマーク・コンスタンティンは、「ブランドとは、そこに集う人によってつくられるものです」と語っているが、まさにそれを体現しているブランドと言える。

「ハッピー&ヘルシーライフを追求し既成概念にとらわれることなく、化粧品業界の新たなカテゴリーのパイオニアとして境界線に挑み続ける」というGlobal Brand Visionを掲げ、実行する5つとして「フレッシュ」「ハンドメイド」「発明」「倫理」「コスメティック」を挙げている。最近、仕事を通して社会的意義のあることを成し遂げたいという人は増えているが、ラッシュは長年、社会的な存在意義を採用サイトで明確に発信してきた。そこに込める思い、採用に対する考え方を、Head of People / Senior Manager(人事部部長)の安田雅彦氏に聞いた。

安田雅彦氏
安田雅彦氏。株式会社ラッシュジャパン Head of People / Senior Manager(人事部部長)。1989年に大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、2001年よりグッチグループジャパンにて人事企画・能力開発など人事部門全般業務に従事。2008年よりジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリード。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年よりラッシュジャパンにて現職。

企業理念の「倫理的であること」を社内で徹底的に浸透させる

ラッシュジャパンの企業理念

――採用のための情報発信において、企業理念の発信に特に力を入れているように見受けられます。まず、ラッシュの理念について教えてください。

我々がビジネスを通じてどういう価値を提供していきたいかは、「ラッシュの信念(A Lush Life)」という内容にまとめられています。「ハッピーな人がハッピーなソープを作る」「fresh/フレッシュ、organic/オーガニックという言葉が、単なるマーケティングの領域を超えて、実際に『新鮮』であり、『有機』であるという本来の言葉のもつ意味を信じています」など、印象的な文章が多数あります。この原文は、創立者のマーク・コンスタンティンが、1994年に創業した翌年に書き上げたもの。この文章の根底に流れている価値観は「倫理的であること」です。

ラッシュは、ビジネス上の利益と倫理観の矛盾に悩むことはいっさいありません。なぜなら、いかなるときも倫理観を優先するからです。それが我々の徹底したポリシーです。象徴的なことでは、動物実験への反対があります。化粧品において、人間への安全性を動物で100%証明できない以上、動物を犠牲にするわけにはいきません。ラッシュでは、より科学的に立証したり、人間の肌で確認したりすることが重要であると考えているため、輸入化粧品に動物実験を義務付けている中国ではビジネスをしていません。たとえ中国が大きな市場であっても、倫理観を優先する考え方に変わりはないからです。

企業理念により求職者の共感を喚起するシェアードバリューコンテンツ作成のコツはこちらへ

――そうした理念を社員にどう浸透させ、共有しているのでしょうか。

人事制度や就業規則などあらゆる点において、「倫理的であること」を浸透しています。原材料の購入についても「エシカルバイイング」と呼んでいますが、児童労働を許していないこと、環境汚染をしていないことなど、さまざまな条件を徹底して確認します。プラスチックゴミ削減にも取り組み、パッケージは最小限に留め、このオフィスでもペットボトルは持ち込み禁止です。ブランド全体の経営が徹底しているからこそ、社員の日頃の行動に至るまで、その価値観は浸透しています。

カルチャーの浸透により社員のエンゲージメントを高め、選ばれる企業になる

エンゲージメント

――理念と現実の矛盾を徹底的に排除するカルチャーは、創立時から明確にあったのですか。

そうですね。ただ、「それはだめだ」と上から指示されることはありません。ラッシュは、ディレクションよりインスピレーションを大切にしています。指示で動くのではなく、自分たちから湧き上がったものによって動くというカルチャーなのです。

たとえば、国内にはショップが84店舗ありますが、各ショップマネージャーには上司がいません。一般的にこれくらいの店舗数の場合、全国で5〜6つのエリアに分かれていて、各エリアにはエリアマネージャーがいて、その上に販売部長がいて、上からの指示で動くのが多店舗展開ビジネスのセオリーです。ラッシュではそれがありません。というのも、広告や手の込んだマーケティングにお金をかけない方針があり、店舗を最大のメディアと捉え、ショップマネージャーやスタッフが自らラッシュの価値を深く理解し、自分の言葉でお客様に伝える必要があるからです。そのため、セールストークのマニュアルや挨拶訓練もありません。

ラッシュのショップマネージャーは、そのショップの経営者であり、最高のブランド体験をお客様に届けることからチームメンバーの育成まで、仕事の範囲は多岐にわたる
ラッシュのショップマネージャーは、そのショップの経営者であり、最高のブランド体験をお客様に届けることからチームメンバーの育成まで、仕事の範囲は多岐にわたる

「この会社で働く」イメージを伝えるカルチャーコンテンツ作成のコツはこちらへ

――キャリアパスに関して、社員の意志や、出産育児など個人のライフステージも尊重されています。そのことを、社員がインタビューなどでふれている点にも、カルチャーが浸透していると感じられました。

社員の自主性、自律性を育むことに注力しています。人事異動がないのも同じ考えです。そもそも人事異動がないのは、自分がハッピーなところで仕事をしたほうがいいという理由です。

ただ、成長はなんらかの変化があって起きるものなので、ずっと同じ状況にとどまっていたら組織も人も活性化しません。そこで、自分の意志によってチャレンジしよう、変化しようと、リーダーはことあるごとにメンバーに伝えています。実際にチャレンジする人を周知するようにもしています。失敗に学び、チャレンジで育つ。そうしたカルチャーが社内に根付いていますね。

ポジションが空いたら、手を挙げたスタッフが移動できる体制にしていますし、募集がある場合は社外だけでなく、必ず社内にも出しています。その結果、人事異動がないのにもかかわらず、1年に20%くらいは自然と動きます。

――オウンドメディアリクルーティングでは、企業理念や企業文化を伝えるシェアードバリューコンテンツを積極的に発信することは、デジタル化が進んだ今の時代にふさわしい採用活動の一つとなっていますが、ラッシュではその考え方は以前からあったのでしょうか。

創業以来ずっと積み重ねてきました。近年、企業が企業理念にフォーカスする傾向にあることはよくわかります。共有する価値観やカルチャーがあり、その通りに経営されていることは、社員にとっての心理的安全性につながり、エンゲージメントの根源になります。こうしたエンゲージメントがある集団になることが、結果的に求職者に選ばれる企業になると考えています。

「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考えの下、求める人物像を発信

ワーク・ライフ・インテグレーション
Lush Peopleというページでは、ショップ、オフィス、キッチン、LUSH SPAと、働く場所ごとにスタッフ紹介がされる。各記事では、「私がラッシュで働く理由」というタイトルで、一人ひとりのワークライフストーリーが語られている

――採用サイトでは、働いているスタッフ一人ひとりの魅力や個性を伝えることに注力している印象があります。ラッシュジャパンが一緒に働きたいと考えている人材像を教えてください。

一番は、我々が大事にしたい価値観や世の中に起こしたい変化について、共感できる人ですね。人によっては、「会社やブランドは関係なく、仕事は仕事として行いたい」という人もいると思いますが、そういった方はラッシュで働くことは難しいです。また、プライベートと仕事ははっきり分けたい、会社ではプラスチックボトルを使わないけど、家ではそんなことかまわないという方も、ラッシュには合わないと思います。

仕事には自ずとその人の理念信条が表れるからです。オーナーの息子でCDO(最高デジタル責任者)のジャック・コンスタンティンは、仕事と生活を切り分けない「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方を支持しています。ラッシュで働くことで生活の価値観が変わり、生活の価値観によってラッシュのビジネスがドライブされるのです。

ただ、応募時点で、ラッシュの価値観を必ず理解していないといけないということではありません。我々との採用面接を通じて共感を抱くという方も多いです。僕自身、その例に当てはまります。「動物実験はなぜだめなのだろう」と思っていましたが、社員と話をして知っていくことで共感するようになりました。僕以外にも、採用に向けたコミュニケーションの過程で興味を持って入社された方もいます。

一緒に働きたい人材像を明確化するための方法はこちらへ

企業理念やカルチャーを積極的、かつ長期的に発信することで成果を生む

オウンドメディアによる情報発信

――採用サイトで、企業理念、カルチャー、スタッフの人物像について積極的な発信を続けることで、定量的な効果や、応募者のマッチングなど定性的な効果を感じることはありますか。 

「ラッシュ✕仕事」で検索する人が増え、採用情報のビュー数も上がり、応募者数がかなり増えました。また、事前によく調べていただいてから来てくださる方が増えてきました。

調べる人が増えたからこそ、ミスマッチを防ぐために、リクルーティングパーティーや採用サイトの記事では、なるべくラッシュの実際の姿をさらけ出すようにしています。エシカルなことは、いいことばかりでなく面倒なこともありますから。たとえば、二酸化炭素を出す飛行機はできる限り控えたいので、電車をなるべく使います。一般企業では当たり前に使われているサービスや商品も、ラッシュの価値観に合わなければ、どんなに便利であっても利用しません。

――情報発信によって、社員もあらためて企業理念を意識し、コミュニケーションが活発になったりするといった相乗効果はありますか。

間違いなくあります。外部に向けて発信する情報と、内部のための情報に区別はありません。社外に向けた記事やメッセージを社員も読んでいますし、僕も社員が読むことを前提に発言しています。外部に向けて伝えたコーポレートフィロソフィーをあらためて読むことで、社員の理解はより高まっていると思います。 

挑戦が奨励され、成長できる場だと伝え、ラッシュで働くことの価値を高める

ラッシュで働くことの価値

――ラッシュジャパンが掲げているビジョンを実現するため、採用戦略や情報発信について中長期的に考えていることがあればお聞かせください。

フレッシュ、ハンドメイド、オーガニックというブランドバリューを、もっと特化させてお客様に伝えていきたいです。

それと矛盾するのですが、ラッシュの製品が環境保護や野生動物保護に配慮しているということは、お客様は知らなくていいとも思っています。お客様はシンプルにバスタイムやメーキャップを楽しんでいただければいいのです。なぜならエシカルはマーケティングではなく、企業としての責任だからです。我々は「地球に配慮し、動物の命を無駄にしないブランドだから買ってください」というスタンスは取っていません。1月に、オーストラリアの森林火災で被災した野生動物救援のため、3600個限定でチャリティソープを国内販売したところ、あっという間に売り切れました。ただ、チャリティはマーケティングではなく、支援に当面必要な金額を当初から確認したうえで販売個数を決定しているので、もう1回増産することはしていません。

我々は本来のオーガニックの意味や素晴らしさを、ビジネスを通じて世の中に訴えていきたいです。そして、ラッシュに共感して働きたいという人をどんどん増やしていきたいですね。報酬でいえば、もっと高給のところはたくさんあるでしょう。しかし、そこだけで他社と競争することは、僕らにとって意味がありません。ラッシュは、グローバルとの接点を持ったり、失敗を恐れずにチャレンジできたり、経験や年齢に関係なく重要なプロジェクトを任せられたりと、ここで働いたことが自分の成長のターニングポイントとなる仕事ができる会社だと思っています。

人材獲得競争はけっして簡単ではない状況ですが、働く場所として選ばれるためにも、ラッシュで働くことの価値をもっと高め、発信していきたいと考えています。

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