CASE STUDY

“クルー”採用年間7万人のマクドナルドが考えるオウンドメディアリクルーティング

2019.07.04

親しみやすく利用する機会も多い外食企業、マクドナルド。全国に店舗があり、アルバイトスタッフ(マクドナルドでは「クルー」と呼ぶ)も約15万人いるという。人手不足が深刻化している中、「QSC&V(Quality=品質、Service=サービス、Cleanliness=清潔さ、Value=価値)の徹底」を実践し、業績回復を実現させた背景には、採用と育成を含めた人材戦略の成功がある。

日本マクドナルドではどのように求人情報を発信し、自社理解の深い人材の採用につなげているのだろうか。また、オウンドメディアをどのように活用しているのだろうか。日本マクドナルド 人事本部 フィールドHR部 マネージャーの宮沢泰成氏に聞いた。

宮沢 泰成氏。1994年、明治学院大学社会学部卒業。同年日本マクドナルド株式会社に入社し、営業とマーケティングを経て、2015年8月より人事本部へ。マーケティング本部では、主要商品であるフードカテゴリーにおいて複数ブランドの商品開発、マーケティング戦略立案、プロモーション開発、メディアプランニングなどを担当。既存商品のマーケティング戦略だけでなく、ビッグアメリカシリーズなど新ブランドの投入も数多く経験。人事本部では、マーケティングプロセスでの人事領域の課題解決に向けて、従業員のブランディング戦略や中長期的なブランド成長戦略を策定。

“働く人ファースト”の人材戦略を通じ、マクドナルドの理念やカルチャーを伝える

Employee Value Proposition

――採用の概況について、新卒、中途、クルーそれぞれについて教えてください。

マクドナルドは、全都道府県に約2900の店舗があり、そのうち7割、約2000店舗はフランチャイズの企業さんに運営していただいており、日本マクドナルドが直接運営に携わっているのは約900店舗。店舗で働く社員は新卒、中途を含め約2000人います。新卒、中途は、それぞれ年間約100人採用しています。

日本マクドナルドには全体で約15万人のクルーが働いており、「ハンバーガービジネス」ではなく「ピープルビジネス」と謳うほど人材を大切にしています。クルーの支えがないとビジネスが成り立ちません。クルーの質と人数をいかに担保するかが、ビジネスの土台になると考えています。

この点については、おかげさまで採用人数、在籍人数ともに年々増加しており、これまで取り組んできた施策が徐々に実を結び始めているという印象を持っています。

――クルー採用のために具体的にどのような施策を取っていますか。

採用活動をするに当たって、前段となるプロセスこそが大事だと考えており、大きく3つあります。

1つ目は、外に向かって何を伝えていくかを定義する必要があると考えており、「EVP(Employee Value Proposition)」を重要視しています。職場の価値は見えるものと見えないものがありますが、後者の見えない価値をきちんと定義していくことが大切だと考えています。

EVPは「3つのF」、すなわち「Flexibility」「Family and Friends」「Future」の3つの価値があると定義しています。

・Flexibilityは、時間帯や職種におけるもので、さまざまなライフスタイル、ニーズ、スキルセットにも合わせて働くことができる
・Family and Friendsは、さまざまな世代、国籍の人が働いているダイバーシティのある環境ということ。日本のマクドナルドでも80カ国以上の国籍の人が働いている
・Futureは、マクドナルドで働くことでその後の人生に活きるスキルを身につけることができるということ。たとえば学生であれば、社会人として必要なことが身につく

2つ目は、「店舗環境」、つまり今働いているクルーの環境をよりよくすることです。たとえば、店長は求人するときに、まずは勤務評価システムを再確認したり、休憩室の環境を整えたりするところから始めます。そうすることでクルーは自然と働くことが楽しくなり、その雰囲気がお客様にも伝わり、店舗の居心地のよさにつながるのです。そういった体験を提供していると、求人広告を行ったとき、お客様の中から応募してくれる方が出てくるようになります。また、仕事が楽しければ一緒に働こうと友だちも誘うでしょう。クルーは年間約7万人を採用していますが、その半数がリファラル採用です。リファラルでは、紹介したクルーが採用したクルーをケアするので、質の担保とともにリテンション(現在働いている人材の確保)にもつながります。

3つ目は、クルーに対してきちんとした「アセスメント」をすることです。学生にもシニアにも同じ適性テストを受けてもらい、構造化面接(あらかじめ評価基準や質問項目を決めておき、手順通りに実施していく面接手法)を行い、その方のコンピテンシー(成果につながる行動特性)が弊社のカルチャーに合うかどうかきちんと見極めます。コンピテンシーは、顧客志向性、チームワーク、イニシアチブ、徹底性の4つがマクドナルドの考える基準に達しているか、すなわちお客様が困っているとき自発的に親切にできるかを基準としています。

――EVPは、新卒や中途の採用においても共通していますか。

EVPに関しては、どの属性の採用においても重視しています。店舗環境をよりよくするという点についても、「店舗環境」を「ブランド」と置き換えれば、ブランドの見え方やブランドに対するお客様の印象が新卒や中途の採用にもつながるという考え方は、同様と言えるでしょう。クルー、新卒、中途によって採用のプロセスは異なっても、採用における考え方は共通しています。

――たとえば中途採用情報ページでは、「トップメッセージ」や「マクドナルドブランド」で自社の理念を明確に伝え、「ビジネスとキャリア」や「私が語るマクドナルドビジネス」では、企業文化や社風やキャリアパスなどを効果的に伝えています。採用情報を発信する上で重視している価値観は何でしょうか。

基本的にはEVPです。EVPをいろいろな階層の従業員がどのように感じているか、彼らの声を発信しています。

その際、求職者が何を求めているかというインサイトも大切で、マクドナルドのEVPと求職者のインサイトの重なりをなるべく多くすることを意識して、外に向かってコミュニケーションを設計していくことが大切だと考えています。

採用情報発信のベースにある企業理念を形作っているのは、今もマクドナルドに強く残っている創業者レイ・クロックのポリシーです。一例は「Up to you」という考え方でしょう。訳すと「あなた次第」ということで、自分から能動的に発信しないと価値を提供できないという考え方です。この価値観が自然と身についているので、採用情報においても意図せず反映されていると思います。そこが求職者のカルチャーフィットにつながっています。

「あなた次第」という価値観は、実力主義という側面もあります。特に中途や新卒の採用では、入社すればいやがおうにも実力主義を実感することになるので、カルチャーフィットしない人だとお互いハッピーになりません。それを避けるために、採用情報を発信する時点でマクドナルドの価値観を伝えています。

発信する媒体としては、ウェブサイト、オウンドメディアのほか、マスコミュニケーションも意識しています。たとえば人事施策やクルー採用のポリシーを伝えるPRイベントを行い、取材していただく。PRイベントの効果は大きいですね。テレビCMにおいても、ピープルビジネスを大事にしている姿勢をお伝えしています。

クルーは15のポジションがあり、JDで仕事内容を明文化

「面接」。「適正検査」。

――ジョブディスクリプション(JD)を明文化かつ細分化し、教育と紐付けることで人材育成にもつなげ、どの店舗でも同じパフォーマンスを発揮できるようにしているとお聞きしました。ジョブディスクリプションの役割をどのように考えていますか。

ジョブディスクリプションは、その人のスキルと要件が合っているかを測る物差しになるので絶対に必要です。評価に関しても、ジョブディスクリプションの内容をきちんと行っているかという視点で見ます。

社員においては、すべての仕事に何百種類ものジョブディスクリプションが定義されています。クルーに関しても、マネージャーについてはジョブディスクリプションがあります。マネージャー以外のクルーについては、ジョブディスクリプションの代わりに、SOC(Station Observation Checklist)という仕事内容を定めたチェックリストがあります。クルーには計15のポジションがあって、それぞれにSOCを設けています。受けてもらうトレーニングや評価についても、SOCに沿って行います。

――ジョブディスクリプションがしっかり定義されているからこそ、働き始めたときのミスマッチが少ないということですね。

15ものポジションがあり、それぞれの仕事内容がしっかり定義されているからこそ、その人の適正、体力、志向に合った仕事を提供でき、入店後のミスマッチを防げているのだと思います。アルバイトは一通りの業務をこなせないとならないという飲食店も多いなか、この点はマクドナルドの強みとなっています。

動画やイベントなどマーケティング手法も活かし、働くイメージを伝える

採用マーケティング

――御社にとってオウンドメディアはどのような役割を果たしていますか。

オウンドメディアは弊社が伝えたいことを自由に発信できるので、深い情報を届けられます。一方で、情報が深くなればなるほど、気軽に見にいくということから乖離してしまうので、どこでどういう情報を出すかには非常に気を使っています。

ウェブ上のオウンドメディアもある程度アクセスいただいていますが、一番大きいのはマクドナルド公式アプリです。約5700万のダウンロードをいただいています。ここに求人のバナーを貼り、興味を持っていただいたらウェブサイトに来ていただいて、より深い情報を知ってもらうという構造が基本となっています。

ただ、アプリを使っていただくお客様の主な目的はクーポンです。バナーを貼ると太い動線は引けるのですが、そこからアルバイト応募へのコンバージョンはけっして高くありません。高くないながらも動線をより太くすればいいのではないかと考えてオウンドメディアを走らせつつ、Indeedさんのような求職者が集まるプラットフォームも活用させていただいています。

――過去に、全国でクルー体験会を開催したり、クルーの働き方を動画で発信したりするなど新しい試みをされています。また、今年8月には新卒採用サイトをリニューアル予定だと伺いました。オウンドメディアによる情報発信に関して、今後のプランを教えていただけますか。

2016年、気鋭のアニメ制作会社であるスタジオコロリドさんに、「未来のワタシ」というクルーの成長を描いた約1分半のアニメーションを作っていただきました。声優をAKB48の横山由依さんが担当して話題となり、世界中のマクドナルドに注目されました。2017年には、主婦、シニア、学生で活躍しているクルーのライフスタイルを伝えるムービー「マッククルーストーリー」も制作し、YouTubeのマクドナルド公式チャンネルで公開しました。動画は情報量が圧倒的に多く、働くイメージをリアルに伝えることができます。

新卒採用サイトについては、基本的なポリシーやコアの価値観は変わりません。ただ、学生さんの趣向は年々変わっているので、表側は毎年アップデートすべきだと考えています。一般的に、外食、飲食業界で採用が厳しい中、マクドナルドを選んでもらうには努力が必要です。最短で入社2、3年目で年商2〜3億円ある店舗の店長を経験でき、言わば中小企業のオーナーとして経営を学んで成長できる、そういった仕事のやりがいや魅力を伝えていきたいと考えています。

――宮沢さんは以前マーケティング本部に在籍していました。その経験が採用や人材育成の施策を実践する上でも活きていると思いますか。

以前の人事は、外に向けてメッセージを発信していくという発想はあまりなかったかもしれません。しかし、マクドナルドに対するきちんとした評価がなければ、いくら求人媒体を利用しても「働きたい」と思っていただけません。「マクドナルドで働きたい」と思っていただいたり、ブランドに対する印象を変えていったりするには、なんらかのコミュニケーションがなければいけません。当時は、人事がPRイベントを開催する前例はなかったので社内を説得するのに苦労しましたが、採用市場が厳しいなかでも採用人数は毎年増えているので、その結果は出てきたように思います。

Interviewee Profiles

宮沢泰成

宮沢泰成

日本マクドナルド 人事本部 フィールドHR部 マネージャー

1994年、明治学院大学社会学部卒業。同年日本マクドナルド株式会社に入社し、営業とマーケティングを経て、2015年8月より人事本部へ。マーケティング本部では、主要商品であるフードカテゴリーにおいて複数ブランドの商品開発、マーケティング戦略立案、プロモーション開発、メディアプランニングなどを担当。既存商品のマーケティング戦略だけでなく、ビッグアメリカシリーズなど新ブランドの投入も数多く経験。人事本部では、マーケティングプロセスでの人事領域の課題解決に向けて、従業員のブランディング戦略や中長期的なブランド成長戦略を策定。

【2019年11月28日受賞企業発表予定】『Owned Media Recruiting AWARD 2019|オウンドメディアリクルーティング アワード』

【2019年11月28日受賞企業発表予定】『Owned Media Recruiting AWARD 2019|オウンドメディアリクルーティング アワード』

「オウンドメディアリクルーティング」を積極的に取り入れながら、能動的に採用を行っている先進的な企業を表彰する「オウンドメディアリクルーティング アワード」を2019年11月28日に開催します。

「オウンドメディアリクルーティング アワード」の詳細はこちら

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