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自社の運営するメディアを軸に自社が主体となって情報を発信し、求職者の共感を喚起することで人材獲得につなげていく能動的リクルーティング手法「オウンドメディアリクルーティング(以下OMR)」。
このOMRが求められている背景は、『なぜ「高付加価値人材」を獲得できないのか? ~求職者の変化よって生じた2つの要因』など、過去の記事でご紹介しました。社会的な変化を捉え、「OMRによって自社の魅力をしっかり伝え、他社との差別化を図ることが必要」と認識し、実践を進める採用担当者も多いでしょう。
ただ、OMRというと「他と比べてユニークな会社でないとできないのでは?」「良いポストも用意できないし、会社としての魅力もないから無理」と考える企業も少なくないでしょう。
他社との差別化は、どんな企業であっても「視点を変えること」で行うことができます。OMRは、一部の人気のある企業、ユニークなベンチャー企業だけが取り組むべきことではなく、今後すべての企業が本当に欲しい人材を採用するために必要なものです。
では、どこから手をつければよいのでしょうか。
本連載では、OMRを実践する方法を下記チャートで示す「7つのステップ」で紹介します。
① 採用したい人材像を明確化
② 自社の魅力となる強みを整理
③ 求職者の検索キーワードを意識したジョブディスクリプションを作成
④ 自社の社会的な存在意義や魅力を伝えるシェアードバリューコンテンツを発信
⑤ 企業理念や自社の社会的な存在意義を表現するパーパスコンテンツを発信
⑥ 企業文化・社風・行動様式・行動規範などを表現するカルチャーコンテンツを発信
⑦ オウンドメディアを中心に他チャネルも含め複合的な情報を設計
まず今回は「①採用したい人材像を明確化」することについて取り組んでいきましょう。
ペルソナを活用して具体的な求職者像を描く
OMR実践の第一歩は「採用したい人材像を明確化」すること、すなわち、自社で働いてほしい人材像や彼らのスキルの整理です。
この点が整理できていないと、下記のようなことが起きてしまいます。
・求職者に届けるメッセージがブレる
・求職者に会社を知ってもらう方法がズレる
・募集要項が曖昧で想定と異なる人からの応募が発生する
採用したい人材像を明確にするためには、ペルソナを活用するとよいでしょう。ペルソナとは、ある架空の人物を理想的な従業員または特定の職務の候補者と仮定して、その人材像を文章化したもの。
ペルソナを活用することで、どんな求職者がどんな企業に魅力を感じているのか、その求職者を引きつけるキーワード、ジョブディスクリプションは何かが見えてきます。その結果、メッセージに一貫性を持たせ、採用に携わる関係者全員が共通認識を持つことができるのです。
ペルソナ作成にあたっては、項目として以下のようなものがあります。
経歴……雇用状況/学歴/キャリアパス/希望勤務地/特長・性格
経験……これまでの職位/スキル/プロジェクト経験
目標……キャリア目標/会社に対して関心のある点
モチベーション……転職への影響要因/大切だと感じること
行動……候補者が雇用機会を知る方法(WEB/ネットワーク/デバイスなど)
これらの項目が埋められると「自社が採用したい人材像」が浮き彫りになります。
とはいえ、前述した各項目がすぐに埋められるわけではないでしょう。そこで、よりペルソナが描きやすくなるヒントを紹介します。
1 社内で優秀な人材に共通するものを見極める
2 データを利用して理想的な採用チャネルを知る
3 同僚や採用担当マネージャーにどんな人が入社しているかを聞く
4 優秀な人材に話を聞く
5 業界特有の採用トレンドを注視する
ペルソナの描き方1:優秀な人材の共通項を見る

たとえば下記のようなものを分析軸として割り出していきます。
・教育(学歴/資格/学位)
・勤務地(異動歴/転勤パターン/出身エリアが特定の地域に集中する傾向)
・職歴(業種/過去に勤務した企業の規模/各仕事及び職位における任期)
「優秀な人材」と一口に言っても言語化できていないケースが多いですが、これらの軸で分類すればわかりやすいでしょう。
ペルソナの描き方2:優秀な人材の採用チャネルを知る
理想的な応募者、採用者が得られるのはどの採用チャネル(経路)かを探ります。採用媒体、SNS、Indeed検索、エージェント、採用HP、リファラル……よく利用されているチャネルはだいたい把握していても、どの経路から応募した求職者が一番のパフォーマーになっているかまで紐づけているケースは少ないはずです。優秀な実績を持つ従業員たちが採用時に利用したチャネルは何か、調べてみるといいでしょう。
ペルソナの描き方3:採用担当と人材について徹底的に話す
同僚や採用担当マネージャーと職務の責任範囲や、できる人の資質、優先すべきこと、社風に適した社員の性格・特性などについて詳細を話し合います。同僚や採用担当マネジャーへの質問例としては、下記のようなものがあります。
「採用プロセスの中で候補者からどんな質問を受けることが多いですか?」
「当社からの採用オファーに候補者がためらいを示す場合の理由は何でしょうか?」
「理想的な候補者にプロフェッショナルとして最優先に求めるものは何ですか?」
「彼らが問題解決にチャレンジしたいと思う課題はどんな種類のものですか?」
「彼らがキャリアゴールを達成するために、当社の職務はどう役に立つでしょうか?」
ペルソナの描き方4:優秀な人材の経歴や目標を聞く
社内の優秀な人材の興味・関心を探り出します。
たとえば下記のようなことを探ると、より人材像が明確に見えてきます。
・会社に何を求め、どんなことに関心があるか
・不安や心配なことがあるか
・なぜこの会社や職務に惹きつけられたか、その理由はどんなことか
具体的な質問例としては下記などが考えられるでしょう。
・経歴
あなたの日常の職務について説明してください
あなたの短期的、長期的なキャリアの目標は何ですか?
勤務外のプライベートの時間はどのように過ごしていますか?
・個人としての目標
あなたにとって仕事で成功するために最も重要なことは何ですか?
もっと欲しいと望むものは何ですか?
どうすればさらに仕事が楽しくなると思いますか?
・キャリアに対する意欲
キャリアに関する決断を下す際にどんな情報を利用しますか?
キャリアについての情報源は何ですか?
相談相手はどんな人ですか?
キャリアに関する決断を下す際に他にはどんなことに影響されますか?
たとえば「営業」といっても企画業務を兼務しているなど、職種名だけでは日常の職務の詳細がわからないケースも多々あります。優秀な人材がどのような職務を行っているのか、職種名で判断するのではなく、内容までしっかり言語化していくことが的確な情報発信につながります。
ペルソナの描き方5:業界特有の“優秀な人材”を知る
エンジニアやマーケター、人事など、職種ごとに優秀な人材の要件は異なります。そのため業界特有の人材の特徴を理解すること・調査することが必要です。
ポイントとして、以下のような問いを持って調べるとよいでしょう。
・この職業に着いている人たちの平均的な教育レベルはどうか?
・どのくらいの頻度で転職しているか?
・どのようにして求人を検索しているか? 利用しているデバイスやチャネルは何か?
・どんな職種の仕事を探しているか?
・業界でトレンドとなっている求人検索キーワードは何か?
・競合他社は、同じ職種の求人広告をどこでどのように掲載しているか?
以上、「ペルソナの描き方」5つを見てきました。これらをベースに考察すると、詳細なペルソナが描きやすくなるでしょう。
母集団を大きくしすぎず効率よく採用活動を行う
従来は幅広い求職者に向けて情報発信し、できるだけ大きな母集団を作ってそこから採用することが良いとされていました。近年は人材要件を細かく明確にして、時にはあえてハードルを上げることで、要件に合う人だけに来てもらい効率よく採用したい企業が増えています。
求職者の価値観が多様化している時代、いくら多くの求職者が集まったとしても、採用後に「価値観が合わない」と早期に離職してしまっては、採用の労力もコストも無駄となってしまいます。「自社で活躍できる人や欲しい人はどんな人材なのか」を明確にイメージしている企業ほど、求職者とのカルチャーフィットがうまくいき、長期的に見て実り多い採用活動ができていることを、あらためて認識しておくべきでしょう。
次回のテーマは、「自社の魅力となる強みを整理」することです。明確にした「欲しい人材像」に向けて、どのように自社の魅力を伝えればいいのか考えていこうと思います。
オウンドメディアリクルーティング実践法 7つのステップ
- #1ペルソナを活用し「欲しい人材像」を明確化する―オウンドメディアリクルーティング実践方法(1)
- #2「4P」で自社の魅力を探り、他社との差別化を図る――オウンドメディアリクルーティング実践方法(2)
- #3精緻なジョブディスクリプションが欲しい人材との出会いを生む――オウンドメディアリクルーティング実践方法(3)
- #4求職者の共感を喚起するシェアードバリューコンテンツ 作成時に意識すべき3つのポイント――オウンドメディアリクルーティング実践方法(4)
- #5「自社が目指す姿」を伝えるパーパスコンテンツ 作成時に意識すべき3つの「伝え方」――オウンドメディアリクルーティング実践方法(5)
- #6「この会社で働く」イメージを伝えるカルチャーコンテンツ 作成時に意識すべき6つのヒント――オウンドメディアリクルーティング実践方法(6)
- #7より多くの求職者にメッセージを届けるために、「SNS・ブログ・イベント」をオウンドメディアとして活用する方法―オウンドメディアリクルーティング実践方法(7)